デニムの裾上げにもさり気なく「こだわり」が詰まっている。

日本のジーンズは海外でも販売しているブランドにもなれば、レングスは長めに設定されていることがほとんど。日本人の場合は、高身長でもなければジーンズは購入してから裾上げをしてもらうというのが常。そんな裾上げって実際どういう風にやっているのか意外と見たことがないなと思い、裾上げ工程を見学してみる。

穿き込んだ後の色落ちを意識するならミシンにこだわるべし。

ピュアブルージャパン原宿店ではヴィンテージジーンズでも裾部分の縫製に使っていたヴィンテージのユニオンスペシャルを完備している。しかもこれは塗装をすべて剥離してベアメタルのボディにカスタムしている

雰囲気のあるジーンズの裾は、裾上げ部分が波打ち、そこに色落ちの濃淡が出る、いわゆるパッカリング(縫い縮み)が実にカッコいい。ただ、通常のミシンを使い、シングルステッチで裾上げしても、そこまで立体的な色落ちは期待できないのである。

その秘密はアメリカ製の工業ミシンであるユニオンスペシャルのチェーンステッチミシンを使用すること。いわゆるヴィンテージジーンズもこのミシンで裾が縫われていたために、裾部分の色落ちにも妥協しないブランドでは、わざわざヴィンテージのユニオンスペシャルを稼働させ、昔ながらの綿糸によるチェーンステッチにこだわっている。

せっかくのお気に入りのジーンズであれば裾上げの縫製にもこだわりたい。

もし、昔ながらの表情豊かな裾の色落ちを求めるのであれば、ユニオンスペシャルのチェーンステッチで裾上げしてもらうのがおすすめ。

というわけで、今回は原宿にあるピュアブルージャパンで裾上げの工程を見学させてもらった。

裾上げなんて、切って折って縫うだけでしょ? と単純に思っている人がほとんどではないかと思うけど、実は細かい技がそこには存在。当然アメリカ製のユニオンスペシャルも慣れた人でなければ扱えないと知り、あらためて裾上げの奥深さを知るのであった。

ピュアブルージャパンにかぎらず、裾上げにユニオンスペシャルを使っているショップは他にもあるので、昔ながらの色落ちにこだわるなら、そんなショップにお願いしてみるのがおすすめだ。

工程_01 まずは実際に穿いて、仕上がりのイメージを相談。

ジーンズの裾の長さの好みも人それぞれ。ジャストの人、短めが好きな人、ロールアップして穿きたい人など。そのため実際に試着して裾の長さをイメージ。今回は5cmくらいロールアップして穿きたいという意向に沿って裾上げする長さを選定。まずは片足を実際にロールアップして測定する。

一般的な身長の人でもこれくらいは裾上げが必要。さすがにここまで裾が余っているとファッショナブルには穿けないからね。裾上げしてもらいましょ
5cmくらいワンロールして穿きたいということで、実際にシミュレーションして裾上げする長さを決める。もちろんメジャーを使ってしっかりと計測

工程_02 裾を裁断するときにもちょっとしたコツが。

長さを導き出したら、最終的に縫いしろを考慮して裾を裁断する。もちろん目分量ではなく、メジャーと定規、それにチェコペンシルを使って正確に。一度切ってしまうと後戻りができなくなるので慎重に。

試着して算出した最終的に裾上げする長さから、裾をふた巻きして縫うので、縫いしろを約2cmさらに取った長さが裾をカットする部分。ピュアブルージャパンでは細めの巻き幅を推奨している。ここにチャコペンシルで裁ち線を引いて裁断準備が完了
チャコペンシルの線に沿って裁断バサミで裾をカット。もちろん手作業である
もう片方の裁断は、裾から長さを測るのではなく、股下からの長さで合わせる。そもそも両足のレングスに生地の縮みなどの誤差がある可能性があるため、必ず股下からのレングスを計ってもう片方の裾の裁断位置を選定する

工程_03 縫う前にちょっとしたひと手間を加える。このひと手間で仕上がりが変わる。

裾をカットしたからといって、そのまま縫製しない。もうひと手間を加えることで、縫いやすくかつ、仕上がりがキレイになるという小技が。裾上げひとつにしても丁寧な仕事が大事なのだと再確認。

ジーンズのインシームにあるロック部分は生地が張り出しているのでここを小さくカットする。裾を巻いたときに、ここに生地が重なって大きく膨らむと、ミシンが脱線してしまうことがあるので、これを防ぐための作業
さらにインシームはトンカチで叩いて生地の凹凸を最小限にする。こうすることで同じようにステッチが脱線することを防いでくれる。ライトオンスデニムの場合、この工程は省略している
生地のセルビッジ部分が来るアウトシームも裾を巻いて隠れるセルビッジ部分は小さくカットし、さらになるべく生地の膨らみを抑えるように、ピュアブルージャパンではペンチを使って平らにクセ付けする。裾をぐるっと一周キレイなステッチを走らせるためのひと工夫

工程_04 いよいよユニオンスペシャルによる縫製。

裾上げ用のチェーンステッチミシンには生地を巻きながら縫っていくための金属製のラッパ(ガイド)が取り付けられ、ここに裾部分を乗せることで、生地が巻かれながら縫われていく。両サイドのシーム部分が難所で、ここをスムーズに縫えるようになるまではある程度の経験が必要。

アメリカ製のユニオンスペシャルはかなり力強く生地をぐいぐい引っ張っていくので、素人には簡単に扱えないミシン。ステッチが脱線しないようにリズム良くミシンを走らせることでキレイな縫製になる
一周縫い終わったら縫製完了。最後の糸の始末は固結びし、余った糸を切れば裾上げ完了

希望通りの長さに仕上がった。

裾上げ完了。早速試着して確認してみると、約5cmワンロールして穿きたいという長さに見事仕上がった。裾のパッカリングを楽しむために一度洗濯をして裾部分の縫い糸や生地を馴染ませてから穿き込むのがおすすめ。

長い年月穿き込むことを考えると、切って余った生地はリペア用に捨てずに持っておくのがおすすめ
希望通りの約5cmワンロールの長さに裾上げ完了。ロールアップすることで、生地のセルビッジ部分や裾のチェーンステッチも見えて、かなり雰囲気のあるスタイルになった

【DATA】
pure blue japan原宿店
東京都渋谷区神宮前3-31-20-102
TEL
03-3408-6644
営業時間 11時~19時 無休
※ピュアブルージャパン直営のショップおよびECサイトで購入したジーンズのみ裾上げに対応します。
https://www.purebluejapan.jp

この記事を書いた人
ラーメン小池
この記事を書いた人

ラーメン小池

アメリカンカルチャー仕事人

Lightning編集部、CLUTCH magazine編集部などを渡り歩いて雑誌編集者歴も30年近く。アメリカンカルチャーに精通し、渡米歴は100回以上。とくに旧きよきアメリカ文化が大好物。愛車はアメリカ旧車をこよなく愛し、洋服から雑貨にも食らいつくオールドアメリカンカルチャー評論家。
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