【渋谷・のんべい横丁】PURE BLUE JAPAN・田村梢さんが横丁に向かう理由。

いま、感度の高い業界人やクリエイターから密かに注目を集める場所、横丁。小綺麗で洒落たカフェではなく、なぜ彼らは猥雑な横丁へと足を運ぶのか。「PURE BLUE JAPAN」プレスの田村梢さんは、若者の街・渋谷にあるのんべえ横丁に通っている。ノスタルジック漂う横丁に惹かれる理由、その魅力を知るべく案内してもらった。

「PURE BLUE JAPAN」田村梢さん|デニム製品で世界的に名を馳せる岡山県倉敷市児島発のウエアブランド「pure blue japan」のプレス兼、神宮前にあるフラッッグシップショップの店長を務める。文化服装学院テキスタイル科卒

こぢんまりとした空間が酒を通じて人との距離を縮めるふれあいの場所。

東京を象徴する若者の街として知られ、これまでファッションや音楽など、多くのカルチャーをいち早く生み出してきた東京・渋谷。高層ビルが多く立ち並び、トレンド最前線的なこの街は、数年前から都市開発の真っ只中。旧いビルや建物は軒並み最新の装いとなり、飲食店やセレクトショップなどのテナントも入れ替わり立ち替わり、枚挙にいとまがない。

またJRや地下鉄、沿線など、渋谷を起点・終点とする鉄道会社も多く1日の乗降者数も常にトップクラスをキープし、駅前は平日休日に関係なく常に賑わいを見せている。そのほとんどが次世代のカルチャーを生み出す10代~20代。そんな若者の街として知られる渋谷の一角に知る人ぞ知るノスタルジックな横丁がある。

JR渋谷駅東口から徒歩2分程度。線路沿いに残された昭和レトロな飲み屋街、その名も「のんべい横丁」。その歴史は旧く、道玄坂にあった戦後の闇市を発祥とし、昭和25(1950)に現在のエリアに建てられた。メインの路地は2本。約40店舗が軒を連ねる。

1店舗平均2坪ほどの広さで定員は10名ほどの小さな居酒屋がズラリと並ぶ。そんな渋谷のディープな横丁で美味い酒に舌鼓を打つのは、ピュアブルージャパンのプレス兼ショップマネージャーである田村梢さんだ。

「毎回、のんべい横丁で飲んだくれているわけではありませんが、昔からご縁があって飲み友達(歳上の大先輩なので友達と言うと失礼かもしれませんが……)が、週に1日だけ、のんべい横丁の「会津」の店主をしていると言うので、数年前に飲みにきたのが最初です。

飲み仲間として田村さんと旧い付き合いだという「会津」店主の御厨さんは、大の酒好きで、本業の傍ら曜日限定で店に立つ。また渋谷のんべい横丁の渉外・広報も担当し、昭和な横丁を守り、バックアップするキーパーソン

店主の御厨さんとは、10年以上前から飲み仲間たちとノスタルジックな横丁で飲み歩こう! みたいな遊びをしてまして。それこそ葛飾区立石とか浅草とか、もっとディープな街まで飲みに行ってましたね。やっぱり、ひとりでも知っている人がいると横丁も行きやすいですよね」

長年の飲み友達として仲良くしてもらっているという「会津」店主の御厨さんとのひとコマ。「昔はすっごいディープな横丁に飲みに言ったよね。あれ何年前だってか」などと軽快なトークで田村さんとの横丁話は尽きない

昭和のノスタルジックな横丁の情景が見られるこということで、渋谷という土地柄、外国人観光客も多く、まだ陽の落ちない夕方からどの店も賑わいを見せる。また、若者の街で知られる渋谷とは思えないほど、旧くから通い続ける常連さんたちも多く、街の様相とは反して、幅広い年齢層から愛されているのも渋谷のんべい横丁の特徴だろう。

現に田村さんが、前回飲みに来た際に一緒に席を並べて飲んだ常連さんがこの日も店へとやって来た。もちろん、1杯ひっかけており、とっくにご機嫌。おそらく彼女と会話したこと、顔すら憶えていないことだろう。今日の酒が楽しければ、それでいい。野暮なことは聞かない。それが横丁のルールなのだ。

前回、のんべい横丁で飲んだ際も遭遇したという常連さん。界隈では知らない人はいないというほど有名な“のんべい”なのだとか。年齢も職業も、そして性別も分け隔てなく、うまい酒を通じて楽しく酒を味わうことができるのも良いところ

「何も知らない人とどうでも良い会話をしながら、美味しいお酒を飲むことが横丁飲みの楽しみ方だと思います。ここで飲んでいる常連さんたちはみんなフレンドリーで良い先輩方たちばかりですけど、実は普段とてもシャイな方だったり。お酒という媒介があるから話せるという方も多いのだと思います。

一見、お店もとてもコンパクトだし、常連さんたちばかりで入りづらそうな雰囲気ですが、たまたま私は飲み友達が店主をしてるって話を聞いたから、この場所に来られたわけで。女性ひとりでは、少しレベルが高いですよね。私はそんなチャンスをもらえたことに感謝しています。でも、いざ入ってみるとすごく温もりを感じられる場所ですよ」

店内壁面には横丁をそして「会津」を愛する“のんべい”たちの写真が隙間なく貼られている。そしてほろ酔い気分で「ちょっと隣へ行ってきます」な軽いノリで隣の「松菊」へとナチュラルに移動できるのも横丁あるある

40店舗が密集する渋谷のんべい横丁。現役ママが作る田舎の手料理や焼き鳥、マグロ専門店、ワインバーやショットバーなど、新旧織り交ぜ、店の形態も様々。今回、田村さんが立ち寄ったのは飲み友達が曜日限定で店主をしているという「会津」という店。

「日本の名水百選」にも選ばれた土地で代々作られる榮川酒造の酒と山ウドやワラビのたまり漬けが名物の田舎料理を味わえる。なかでも一般市場では、なかなかお目にかかれない「榮川」のにごり酒は、清酒同様、甘すぎず、辛すぎない。良質な水の旨味がダイレクトに伝わるすっきりとした味わいが、田村さんもお気に入り。

あまりの美味さに酒が進み、終いには「にごり酒飲みすぎですよね。清酒をもらいましょうか?」、「いやいや全然、飲んで!」、「遠慮しておきます」、「いや遠慮しないで!」、「あ、じゃあにごり酒をください」の笑いの攻防が続く。

「家も職場も渋谷から比較的近いので軽く飲んで帰るには最適の場所。お酒が美味しいと軽くなんて言ってられませんよね。結局、深酒しちゃうんですよね」

そして、隣の「松菊」でも日本酒を味わう楽しい夜となった。

隣の「松菊」も御厨さんが店主を務める店で一品料理と日本全国のレアな日本酒を日替わりで味わえる。曜日によってママが変わるも基本的なメニューは同じ。女性や外国人に優しい店

「榮川」にあう肴は?

会津の名門酒蔵である榮川酒造の「榮川」のにごり缶(180m)700円。都内でも限られた店でしか味わうことができない銘酒。またほどよい塩加減がクセになる山ウド、ワラビのたまり漬けは各500円。ニシンの山椒漬け600円。イサキのカマの煮付けは当日の限定メニュー。イナゴの佃煮は要望に応じて。

DATA
会津
東京都渋谷区渋谷1-25-9
営業/18時~24
休み/日祝

※情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。

(出典/別冊Lightning Vol.209TOKYOノスタルジック横丁」)

この記事を書いた人
モヒカン小川
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モヒカン小川

革ジャンの伝道師

幼少期の革ジャンとの出会いをきっかけにアメカジファッションにハマる。特にレザー、ミリタリーの知識は編集部随一を誇り、革ジャンについては業界でも知られた存在である。トレードマークのモヒカンは、やめ時を見失っているらしい。
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