1970年代のアメリカン・コンパクトカーの乗り味って?

編集部でも随一のアメリカ車好きであり、自身も数々のアメリカ旧車を乗り継いできた最古参・ラーメン小池。最近ではLightning、2nd、CLUTCH magazineの公式YouTubeチャンネル「CLUTCHMAN TV」でも“ライトニングガレージ”という、アメリカ車好き全開のゆるーい動画連載を開始した。

今回は、ウルフマンバーバーのオーナーである理容師の曽原さんが所有する「1975年式AMCグレムリン」をキャッチアップ。アメリカでも珍車と言われる1台でドライブ。アメリカ車なのにコンパクトなボディだが、V8エンジンを積むという異形のアメリカ車の乗り味は?

コンパクトなボディに5700ccのV8エンジン搭載!!

ウルフマンバーバーの曽原さんが所有する1975年式AMCグレムリン。このクルマはアメリカではコンパクトカーのカテゴリーになるモデルで、オイルショックや排ガス規制が厳しくなった時代にアメリカで生まれた車種。

当時はフォードがピント、シボレーがベガ、それにホンダ・シビックやVWビートル、さらに後年にはゴルフなどの海外勢が加わって、それまで大きなクルマばかりだったアメリカでもコンパクトなクルマが注目され始めたころの時代を反映している。

そのなかでもAMCから生まれたグレムリンは、リアをバッサリとカットしたようなデザインが特徴的で、ややバランスが悪い見た目とぶさかわいいフロントマスクが逆にコアなファンに人気のモデルだ。

そんなちょっと王道を外したアメリカ車に惹かれた曽原さんのセンスにも脱帽。いざ、助手席に乗せてもらってその走りも体感してきた。

クルマに乗り込んで思ったのはコンパクトなサイズ感なのに、フロントのスペースは余裕がある。大きなアメリカ人でも足が伸ばせるほどで、その分、リアスペースがかなり狭いのが印象的。1人1台のアメリカではリアシートはあくまで緊急用なんだと実感させられる。

イグニッションをひねると目を覚ますエンジンは、このクルマを手に入れたときに換装されていたというシボレー製5700ccのV8。ドロドロとしたアメリカ車特有の排気音は低回転からトルク感たっぷりの走りを披露してくれる。

「アメリカのV8エンジンは独特ですよね。トルク感や力強さ、それにカラダに伝わってくる振動などの感覚は他の国のクルマでは味わえないですね。その振動で1時間も走ればなんか全身の筋肉がマッサージでほぐれたみたいな感覚になったりして、それがまた心地良かったりするんですよね」と曽原さんは昔のクルマならではの荒々しさも楽しさだと感じている。

1970年代のアメリカ車になるとダッシュボードにはプラスチックが多用され、曽原さんにとっては逆にそれがおもちゃっぽくて良いという印象。中央に伸びるのはシフトノブで、もともとはコラムシフトだったが、アメリカから輸入されたときにはトランスミッションごと換装され、フロアシフトに変更されていた
ステアリング中央にあるホーンボタンにはグレムリンのキャラクターである小悪魔が。これは曽原さんが手に入れてから、海外のネットオークションで手に入れてカスタムしたもの。アメリカにはこのモデルのコアなファンがいるので、まだまだ手に入るパーツも存在する
純正かと思うほどクルマのデザインにぴったりのホイールキャップは社外品。中央が尖った円錐形のホイールキャップは現在の安全基準では生産できないフォルム。ヴィンテージの社外品を取り付けている

このクルマはエアコンも無ければ、パワーステアリングも無い。それこそ現代のクルマではありえない仕様だけど、それもその時代らしさだし、現代のクルマのようにはいかない部分も楽しんでいるのが印象的だった。

旧車ならではのウイークポイントもその時代のスタイルだとポジティブに考えれば楽しさに繋がるんだと。だからこのクルマも現状のまま、しっかりメンテして走ってくれればと考えている。

もちろんレストアして当時の新車のようにすることもできるけれど、今は経年によって生まれた味わいを大事にしたいと言う。経年変化だけは新しいモノには生み出せないし、旧いモノはそこにある歴史とかストーリーにロマンを感じるので、よけいにキレイにする必要は無いというのが曽原さんの考え方だ。

リア中央のエンブレムは給油口も兼ねている。旧いアメリカ車はリアの中央だけでなく、可倒式になったライセンスプレートの裏、それにテールランプが可倒式になっているなど、給油口の場所まで年代や車種によって多彩
ロングノーズに超ショートデッキという無理矢理コンパクトにしたような奇抜なデザインがグレムリンらしさ。アメリカ人のシンプルな発想が生み出した珍車でもある。ちなみに人が乗るとこのようなバランスに。このカワイさで5700ccのV8エンジンを搭載しているというからぜいたくである

V8エンジンなので、日本の高速道路でも流れについて行けないなんてことはなく、所有してから3年ほどで、致命的なトラブルも無い。

もう1台所有しているホットロッドに比べれば、フェンダーもあるし、屋根もエンジンフードも付いている。雨や風を気にせずに乗れるだけでも十分だと笑って語ってくれた。

旧いクルマを楽しむには、何でもポジティブに考えることができる思考と、頼れる専門家が周りにいること、それに経年を楽しむ余裕が大事だと、曽原さんと1975年式AMCグレムリンが教えてくれた。

それこそが旧いモノと永く付き合うための秘訣なのかもしれない。

▼AMCグレムリンの走りの様子はこちらの動画でチェック!

この記事を書いた人
ラーメン小池
この記事を書いた人

ラーメン小池

アメリカンカルチャー仕事人

Lightning編集部、CLUTCH magazine編集部などを渡り歩いて雑誌編集者歴も30年近く。アメリカンカルチャーに精通し、渡米歴は100回以上。とくに旧きよきアメリカ文化が大好物。愛車はアメリカ旧車をこよなく愛し、洋服から雑貨にも食らいつくオールドアメリカンカルチャー評論家。
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