キヤノン2024年秋モデルインクジェットプリンター発表

キヤノンが2024年秋モデルのインクジェットプリンターを発表した。今年はいずれもマイナーチェンジ。趨勢が大きく変わることもあってか、大きな変化はない商品展開となっている。従来イチ押しだった6色ハイブリッドモデル『TS8830』よりも、低ランニングコストの『XK130』を推すのはなぜなのか? 家庭用プリンターの現在の様子をお伝えしたい。

『はがき85円』で到来する、年賀状時代の終焉

かれこれ14年ぐらい家庭用プリンターの新製品発表会を取材しているが、14年前からは大きく情勢は変わりつつある。

なにしろ、もともと家庭用プリンターといえば『年賀状』を中心に回る市場だった。年末に年賀状を刷るために買う人に向けて秋に続々と新製品が登場し、年末に向けて家電量販店で販売合戦が行われ、年が明けると大きく値引きされ、それを目当てに買う人もいた。

『フォトクオリティ』が標榜され、家族写真をプリントした年賀状を、家庭用プリンターで出力して送る人も多かったし、年賀状アプリが販売されたり、毎年の干支のデータが店頭で販売されていたのも、それほど昔のことではない。

しかし、インターネット、SNSの普及により、年賀状市場は大きくシュリンクしつつある。「あけおめLINE」を交わしたあとに届くはがきに昔ほど価値を見出せなくなっているのもたしかだし、個人情報の保護意識が高まり、会社や学校でも各自の住所リストが配布されることもなくなったから、余計に年賀状は送りにくい。

そして、2024年10月1日からはがきの切手代が、85円/枚になる。100人に送れば年賀はがき代だけで8500円。これを機に年賀状を送るのをやめようという人はますます増えるだろう。

というわけで、家庭用インクジェットプリンターは長期の縮小傾向にある。

中心的なニーズは、『在宅勤務』『家庭学習』へ

在宅勤務の増加、子どもの宿題のプリント……などの新たな用途はあるけれども、そちらはむしろクオリティよりは低コストが要求される。

そんなわけで、年賀状モデルであったTS8830よりも、低ランニングコストモデルであるXK130がプッシュされるというワケである。

XK130を含むXKシリーズのコミュニケーションワードは『Wトク(ダブトク)』で、『低ランニングコストでお得』『リーズナブルな性能だから納得』でWトクというわけだが、高画質、高性能を謳っていた時代に比べると、一抹の寂しさを感じる。が、これが現代の世情に対応しているということなのだろう。

ちなみに、XK130の予価は4万2900円、TS8830は4万0150円(いずれもキヤノンオンラインショップ価格)。

TS8830とXK130の新機能は、勉強に使える『カラー消去コピー』、『冊子コピー』などごくわずか。

一方、大容量のインクタンクを持つ『ギガタンク』のエントリーモデルであるG3390は、大型の2.7インチタッチ液晶チルト式オペレーションパネルを追加し、1プッシュコピー機能を追加するなどして機能強化を図っている。在宅ワークや、家庭学習のニーズが増しているというのが感じられる。

年賀状ニーズが減っていって、家庭用プリンター市場に元気がなくなっているのは確かだ。

ただ、我々としてもプリンターがなくていいというわけではないし、仕事の書類をプリントしたり、子どもの学校の書類をプリントしたりと、ニーズはある。

ただ、年賀状マーケットの幻影を追うだけでなく、『今の家庭に、どのようなプリンターが必要とされてるのか?』をゼロから問い直す時代がやってきているのではないだろうか?

(村上タクタ)

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おせっかいデジタル案内人

「ThunderVolt」編集長。IT系メディア編集歴12年。USのiPhone発表会に呼ばれる数少ない日本人プレスのひとり。趣味の雑誌ひと筋で編集し続けて30年。バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴの飼育、園芸など、作った雑誌は600冊以上。
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