遅まきながら、Meta Quest 3を体験。Vision Proとの違いとは?

Meta Quest(旧Oculus Quest)は、けっこう前から使っている。最初にOculus Goが日本発売された時、喜び勇んで買って『これぞ未来!』と思ったものだし、Quest、Quest 2も使ってきた。が、Quest 3は機会がなくて未体験だったし、Vision Proの記事をたくさん書いてたので、もしかしたら周囲から(業界では)『Vision Pro派』みたいに見えていたかもしれない(Meta Quest Proも一応体験させてもらっている)。

が、別にMeta Questも好きだし、これはこれで面白いと思ってる。ただ、機材を買えるかというと、個人的な予算には限りもあるし、Vision Proの新しい世界を見てみたいというのもあった。ちょっとVRのゲームに連れていってもらった時に激しく酔ってしまい、以来完全なVR(現実世界が見えない)はちょっと気乗りしない……というのはあったかも。

四畳半を無限の空間に

Meta社さんから、「一度、Meta Quest 3も体験してみませんか?」と、ご連絡いただいて、イベントに参加したのは6月末のこと。Meta QuestとVision Proは別のものだと思っているのだが、ご連絡いただいたメッセージには「Vision Proもいいけど、Meta Questも体験して記事を書いてよ」という雰囲気が漂う(考え過ぎかもしれないけど)。たしかに、Meta Quest 3も体験してみるべきだろう。

今回のイベントは東京のとある古民家を使って、部屋ごとにさまざまな使い方を体験させてもらえるというメディアイベント。他に体験している人を見ていると、VR体験豊富なテック系メディアの人だけでなく、VR初体験な感じの一般メディアの人も多かったように思う。

今回のメディア向け体験会のキーメッセージは『四畳半あれば、何でもできる、何にでもなれる』というもので、VRデバイスの大きな可能性を表したものだったが、ネットでは「日本の家が狭いからといって……」とか、「実際には四畳半でも色々なものがあるから、身体が当たっちゃう」とか、いろいろな意見が出ていた。

「四畳半=狭小」というネガティブな単語を、キーメッセージに使う難しさを感じた。我々も、良かれと思って何かと対比したりした時に、思わぬ反発を読者の方から受けることがある。言葉というものの難しさだ。

Meta社としては、「限られたスペースでも、広い空間を体験できるのがMeta Quest 3の楽しさ!」と伝えたかったのだろう。実際、そういうメリットも大きい。

Vision ProもOculus Questも、狭い場所を広く感じさせるデバイスなのだが、日本の家は両手を振り回すにも不自由なぐらいなので、普及していくにしたがって、多くの人は、リビングや書斎を片づけて、もう少し広めの空間を作らねばならないことだろう(実際、筆者はVision Proを使うために、リビングの広い(その代わり、駅からはるか遠く、築年数も古いが……)物件に引っ越したほどだ。

7万4800円で買えるMRデバイス。アプリも豊富

体験レポートに入る前に、Meta Quest 3について若干整理しておこう。

発売は2023年10月10日。価格は128GBモデルが7万4800円、512GBモデルが9万6800円(さらに現状、アプリの割引クーポンが付く)。

3DoF(上下左右は見渡せるが移動はできない)だったOculus Goに対して、6Dof(それぞれの向きへの移動も感知できる)になった、Oculus(Meta) Questの3世代目。Vision Proの影響かどうかは分からないが、従来『VRヘッドセット』と言っていたのだが、Meta Quest 3は『MRヘッドセット』と表記されている。

チップセットはSnapdragon XR2 Gen 2。ふたつの18 ppdのRGBカメラを含め、合計6つの高度なカメラセンサーを搭載。発売時期からすると、Vision Proを意識して開発したとは思えないが、高価なVision Proに対して、お手ごろな価格でMR空間を体験できるデバイスとなっている。

ハンドトラッキングは無理せず、左右2台のコントローラーを使って操作する。Vision Proはこれを持たずに操作できるのが素晴らしいところだが、ゲームなどをする際にはコントローラーがあった方がタイムラグなしに操作できるので、これはこれで便利だと思う。

まずは日本っぽいコンテンツを体験

MR HOUSEに入っての最初の体験は『もっと! ねこあつめ』というゲームだった。

ご覧のように、MR空間内に猫のキャラクターが描画されており、その猫をなでたり、猫じゃらしで遊んだりすることができる。

たぶん、MRデバイス初体験の人は驚くのだろうが、さすがに筆者はびっくりはしない。

それより、Meta Quest 3の現実空間の描写の良さに驚いた。もちろん、Vision Proの解像度には遠く及ばないのだが、Vision Proの59万9800円という価格に対して、わずか約1/8の価格でこれを実現できているのには驚くほかない。2018年登場のOculus Goから6年間、商品を開発し、市場を耕し、ユーザーを増やしてきた先駆者としての力を感じる部分だ。

また、 IPコンテンツを数多く持つ日本は、こういったキャラクターの3D化、実体化で、さまざまなコンテンツ展開が可能な気がする。もっといろいろなアプリケーションが出ると楽しいのだが。

もちろん、Vision Proの『ほぼ現実が見える』という状態とは大きな隔たりがあるが、それでもMeta Quest 2の低解像度モノクロのMR表現に比べると格段の進歩だ。ただ、投影される映像の歪みとかズレは大きいので、Vision Proのように自由に歩いたりするというのには少し無理がある。

Meta Quest 3を外部ディスプレイとして使うこともできる

2階へ移動してこんどは、パソコンの外部ディスプレイとしての利用。Vision Proも最大の用途はこれだから、Meta Quest 3でどのぐらい使えるのかは興味深い。

ご覧の通り、案外実用的というのが実感。Vision Proより本体が軽く、価格も安いので気軽に使えるという点も含めて、これはこれでアリだと思う。

もちろん、解像度などには大きな差はある。

Vision Proが片目4K以上なのに対して、Meta Quest 3は片目2Kの表示能力なので、ピクセル数は1/4だから止むを得ないところ。表示できるディスプレイは、Vision Proは現状4Kだが、Immersedはもっと低い模様。2560 x 1440 ぐらいまで表示可能なようだが、体験した時にはHD解像度ぐらいに見えた。内部的な演算上のピクセル数と、ディスプレイの解像度の関係で、そこまで高い解像度に見えないのかもしれない。

4Kディスプレイでグラフィカルな処理をしたい……というニーズもあれば、ノートパソコンのディスプレイで、文章を書いたり、エクセル仕事をしたり……と、様々なニーズがある。Vision Proの高解像度がいいという人もいれば、リーズナブルなMeta Quest 3を気軽に使えた方がいいという人もいるだろう。

多彩なアプリがすでに熟成されているところが魅力

Meta Quest 3の美点は、Oculus Questからの歴史のおかげで、さまざまなアプリケーションがすでに開発されているというところにある。

そして、これからも当分の間はMeta Questの方が利用者は多いだろうから、アプリケーションデベロッパーにとって、Meta Questの方が大きな市場ということになる。

次に体験したのは、MX空間上で家具の配置をシミュレートできるJoyverse‬‭ というアプリ。

購入してみたら、家具が大きすぎて圧迫感があったというのはよくある話。店は広いから、家具の大きさを錯覚してしまうという側面もある。

Joyverseでは、ご覧のようにテーブルやイス、プランツなどを配置して大きさ感を体験することができる。もっとも、試した場所が四畳半なスペースだったので、アメリカンなサイズのベッドやテーブルは、部屋からはみ出してしまっていたが。

この用途は、非常に便利だと思う。ニトリや大塚家具などは、VRデバイス用アプリは開発していないのだろうか?

VR空間での映像体験ならこれでも充分

続いては、写真のAR体験。

アップルで言うところの『空間ビデオ』体験だ。

なんと、Vision Proと同じく、iPhone 15 Proで撮影した空間ビデオを見られるらしい。

ちなみに、見せていただいた映像はサンフランシスコを一望できるツインピークスという小山。たまたま行ったことのある場所だったので、懐かしさを感じた。こうやって、世界のいろんな場所の風景を見られるのは楽しい。

もちろん、寝転がったりして、YouTubeをはじめ、さまざまな映像コンテンツを楽しむのも最高。

そりゃVision Proと比較するとどうしても見劣りするが、Meta Quest 2の片目1832 × 1920ピクセル。視野角 水平90度、垂直90度に対して、Meta Quest 3は片目2064 × 2208ピクセル、水平110度、垂直96度となっており、解像度は改善されている。Meta Quest 2を持っている筆者としても「あ、きれいになった」と思うほどの違いがある。

VRコンテンツも、Meta Quest用に最適化されたものが多いので、Vision Proより多彩なコンテンツを楽しむことができる。

Meta Quest 3を使ってボクササイズで汗をかく

Meta Questといえば、Beat Saberがキラーコンテンツだが、似た感じのことができる。‬Les Mills Bodycombat‬というアプリを体験させてもらった。

Beat Saber同様、空間の奥から飛んでくるミット状のものにパンチを繰り出すのだが、若干の向きがあるので、必然的にパンチはフックやアッパーになる。連続してミットが飛んできたら素早いジャブになり、障害物が来たらダッキングして避けなければならない。

Beat Saberは突き詰めると、あまり身体を動かさず、手首でセイバーを動かすようになってしまうが、Les Mills Bodycombat‬は、良い得点を出そうとすると、本当のボクササイズのように、フットワークを使い、ダッキングし、キレのいいフックを繰り出す必要がある……ような気がする。5分ほど試しただけで語るのも何だが(笑)、すでにほんのり汗をかいていた。

Vision Proとは別物で、性能に対して格安!

というわけで、1時間ほどMeta Quest 3を満喫させてもらった。

やっぱり結論としては、Vision ProはVision Proで、Meta Quest 3はMeta Quest 3なのだけれども、MR表現は明らかにVision Proの影響を大きく受けているように思う。

iPhoneの登場がスマホの進化の方向を決定づけたのと同様に、Vision Proの登場がMRデバイスの進化の方向性に大きな影響を与えることなると思う。それにしたがって、Meta Quest や、Googleが出すであろうデバイス(もしくはOS)、中国のメーカーが出すデバイスなどは進化し、普及価格帯の商品も登場するだろう。

そんな中、数年先行してVRの市場を成立させてきたMeta Questの存在は大きい。今回Meta Quest 3を体験させてもらって、思っていたよりMeta Quest 2から大きく進化していることを体感した。

身近に使えて、ゲームやさまざまなアプリを使うなら、Meta Quest 3も充分アリな存在だと思う。

(村上タクタ)

 

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村上タクタ
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村上タクタ

おせっかいデジタル案内人

「ThunderVolt」編集長。IT系メディア編集歴12年。USのiPhone発表会に呼ばれる数少ない日本人プレスのひとり。趣味の雑誌ひと筋で編集し続けて30年。バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴの飼育、園芸など、作った雑誌は600冊以上。
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