アメリカで戦う日本人ビルダーの果てなき挑戦。「KIYO’S GARAGE」清永充宏

LAに拠点を構える「KIYO’S GARAGE」のビルダー、“KIYO”こと清永充宏。独創的なスタイルのカスタムバイクを組み上げ、ヴィンテージモーターのスピードをひたすらに追い求めるレーサーである。カスタムビルダーであり、レーサーであり、挑戦者。その胸には常に、自らの美学と終わりなき夢がある。現状に満足することなく、アメリカで夢を形にし続ける、日本人ビルダーの生き様に迫る。

「KIYO’S GARAGE」Builder・Mitsuhiro Kiyonaga| 1973年生まれ、熊本出身の九州男児。2001年に渡米し、某旧車専門店での修行を経て、2012年にキヨズガレージをオープン。カスタム、レース両面において妥協することなく自身の世界観を追い求める探究者

夢の始まりは、0からのアメリカ挑戦。

ヴィンテージバイクの業界に限らず、アメリカで活躍する日本人の多くは、日本で成功を収め、アメリカに挑戦すると言う構図が一般的に感じる。今となっては世界中の旧車フリークにその名を知らしめるキヨズガレージ/清永氏だが、その実、日本では海上自衛隊に勤め、メカニックとしての経験が皆無のままに渡米。アメリカで0からキャリアをスタートさせ、実績を積み重ねた異色の経歴を持つ。

2012年に独立してキヨズガレージをオープンするが、現時点でのショップは看板すらなく、外観からはバイクショップであることは一切わからない。さらに、現代のショップやブランドの宣伝活動に欠かせない自社SNSを持つことなく、キヨズガレージに辿り着くのは口コミのみ、という昔ながらの運営スタイルを貫いているのも特徴である。

それは、語弊を恐れずに言えば、全ての仕事を受け入れるのではなく、「100%情熱を捧げられる仕事に集中したい」と言う清永氏の思いを映し出すものだ。

カスタムとレーシング、 自分で造って自分で走る。

キヨズガレージの日常業務の大半は、ヴィンテージH–D、特にナックルヘッドのリビルドやホップアップを含むエンジンワーク。西海岸を中心に、アメリカ全土の旧車フリークから頼られる手だれのメカニックである。

その一方で、オールドスクールチョッパーの祭典、BORNFREEのインバイテッドビルダーに選出され、アワードを獲得するカスタムビルダーであり、自らビルドしたレースバイクに乗り、ランドスピードレースに置いてワールドレコードを樹立するスピード狂の一面を持つ。カスタムビルドとレーシング、この二つがキヨズガレージ、清永氏を語る上で欠かせないキーワードである。

この記事の後半で紹介するCBエンジン二基がけの月光”Moon Light”と三基がけの銀河”Galaxy”は、キヨズガレージ創業と同時にスタートしたCB750ベースのカスタムレーサー、桜花”Cherry Blossom”から繋がるシリーズプロジェクト。

集大成と言える銀河が今年5月のドライレイクレース、エルミラージュで遂にレースデビューを果たしたわけだが、「桜(桜花)を月(月光)が照らし、宇宙(銀河)が包み込む」という独自の世界観の元にスタートした3台のシリーズ作は約10年に及ぶ壮大なプロジェクトとなった。

そのどれもが、他の何にも似ることのないオリジナリティに溢れたカスタムバイクであり、最高速を競うランドスピードレースをターゲットにビルドされたものだ。

ちなみに月光は、先述のBORNFREEにてビルダーズチョイス1stプレイスに選ばれた実績を持つ。西海岸最大級のチョッパーショーにて、最高峰のアワードを獲得しながらも、本来の目的であるランドスピードレースにおいて、エルミラージュ・ドライレイクレースで175.002mph(約281.6km/h)を記録。まさに、カスタムとレーシングの両面を繋ぐ清永氏のアイデンティティを高次元で体現するマシンである。

そして、昨年はナックルヘッドの愛機、秋水”The Sharp Edge”に乗り、エルミラージュで自身初のレコードブレイクを達成。独創的なカスタムビルドが外観上の華だけでなく、車重の軽量化や強度、整備性の高さなど、スピードのための機能美を踏まえた手法であることを証明した。

速さ=正義のストイックな世界においても、「他人と同じ」を忌み嫌い、スピードと同時にカスタムの独自性を追い求める。そして、全てのカスタムビルドにそれぞれのストーリーがある。それが清永氏のカスタム/レーシングの特徴である。

ランドスピードレースは、ドライレイク/ソルトレイクの直線コースを走行し、最高速に挑む極めてシンプルなレース。日本では馴染みが薄いが、アメリカでは非常にトラディショナルなレースだ
この記事を書いた人
CLUTCH Magazine 編集部
この記事を書いた人

CLUTCH Magazine 編集部

世界基準のカルチャーマガジン

日本と世界の架け橋として、国外での販路ももつスタイルカルチャーマガジン。本当に価値のあるモノ、海外記事を世界中から集めた、世界基準の魅力的コンテンツをお届けする。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

デニムにする? コーデュロイにする? エドウインのトラウザーズを軸に作る「シン・トラッドスタイル」

  • 2025.09.19

ジャパニーズアイビーのボトムスは、太ももから裾まで太さが一定のパイプドステムが主流であった。対してタック入りのトラウザーズは、1920年代に登場したといわれる、よりクラシックなボトムス。そんな旧きよきトラウザーズを軸に、いつものトラッドスタイルを刷新してみてはいかがだろうか。 【右】トラウザーズ2万...

レザーラバー必見! 革ジャン用に作られた薄手のスウェットをゲットせよ!

  • 2025.09.30

革ジャン専用のTシャツをリリースし、レザーラバーから絶大な支持を受けるブランド「ハイウェイナイン」。ライトニング別注の「Lightning Leather Lover Tシャツ」のボディにも使われているので、愛用している方も多いのでは? そんなハイウェイナインが、レザーラバーのために新たなアイテムを...

Wranglerの走破性は本物か? オフロード体験会で徹底検証

  • 2025.10.03

筑波山の麓で開催されたジープのオフロード体験イベントは、ジープオーナーはもちろん、新規顧客にとってもジープの魅力を存分に感じられる特別な一日となった。専用のオフロードでラングラーならではの走破性を体感でき、オーナー同士の交流も見られた。今回は現地取材を通して、その模様と参加者のリアルな声をお届け。 ...

シルバーをアートに変える、現代の錬金術師。

  • 2025.09.24

ネイティブアメリカンの伝統技法をベースに現代的なエッセンス、そして日本独自の繊細な美意識を加えることで唯一無二の世界観を紡ぎ出すFIRST ARROW’s。一片のシルバーの塊に命を吹き込むその様は まさに現代のアルケミスト(錬金術師)という表現が相応しい。これらの作品は貴方が身に付けることで完成する...

東洋エンタープライズがこれまでに培ったノウハウや知見の集大成「モダクト」と「タフナッツ」

  • 2025.09.19

「シュガーケーン」や「バズリクソンズ」など、ヴィンテージをベースとした生地やディテールの圧倒的な作り込みで知られる東洋エンタープライズ。そんな同社が手がけるブランド、「モダクト」と「タフナッツ」は、これまでに培ったノウハウや知見の集大成でありながらどんな日常のシーンでも使いやすい実用性を備える。映画...

Pick Up おすすめ記事

Wranglerの走破性は本物か? オフロード体験会で徹底検証

  • 2025.10.03

筑波山の麓で開催されたジープのオフロード体験イベントは、ジープオーナーはもちろん、新規顧客にとってもジープの魅力を存分に感じられる特別な一日となった。専用のオフロードでラングラーならではの走破性を体感でき、オーナー同士の交流も見られた。今回は現地取材を通して、その模様と参加者のリアルな声をお届け。 ...

シルバーをアートに変える、現代の錬金術師。

  • 2025.09.24

ネイティブアメリカンの伝統技法をベースに現代的なエッセンス、そして日本独自の繊細な美意識を加えることで唯一無二の世界観を紡ぎ出すFIRST ARROW’s。一片のシルバーの塊に命を吹き込むその様は まさに現代のアルケミスト(錬金術師)という表現が相応しい。これらの作品は貴方が身に付けることで完成する...

デニムにする? コーデュロイにする? エドウインのトラウザーズを軸に作る「シン・トラッドスタイル」

  • 2025.09.19

ジャパニーズアイビーのボトムスは、太ももから裾まで太さが一定のパイプドステムが主流であった。対してタック入りのトラウザーズは、1920年代に登場したといわれる、よりクラシックなボトムス。そんな旧きよきトラウザーズを軸に、いつものトラッドスタイルを刷新してみてはいかがだろうか。 【右】トラウザーズ2万...

東洋エンタープライズがこれまでに培ったノウハウや知見の集大成「モダクト」と「タフナッツ」

  • 2025.09.19

「シュガーケーン」や「バズリクソンズ」など、ヴィンテージをベースとした生地やディテールの圧倒的な作り込みで知られる東洋エンタープライズ。そんな同社が手がけるブランド、「モダクト」と「タフナッツ」は、これまでに培ったノウハウや知見の集大成でありながらどんな日常のシーンでも使いやすい実用性を備える。映画...

レザーラバー必見! 革ジャン用に作られた薄手のスウェットをゲットせよ!

  • 2025.09.30

革ジャン専用のTシャツをリリースし、レザーラバーから絶大な支持を受けるブランド「ハイウェイナイン」。ライトニング別注の「Lightning Leather Lover Tシャツ」のボディにも使われているので、愛用している方も多いのでは? そんなハイウェイナインが、レザーラバーのために新たなアイテムを...