「黒のローファーは嫌いやねん」革靴巧者『リゾルト』デザイナー・林芳亨さんのローファーの嗜み方

これまでに様々な革靴を目にし、足を通してきた革靴巧者にローファーについて語ってもらうと、それぞれのローファーに対する考え方や認識の違いが見えてきた。今回は、「リゾルト」デザイナー・林芳亨さんに貴重なコレクションとともに、存分に語ってもらった。

「リゾルト」デザイナー・林芳亨|1956年、広島県出身。デニムブランド「リゾルト」を手がける。現在も工場に通い、職人たちとの交流を大切にしたアイテムづくりを心がけている。その人柄を含め、多くのファンを持つ

「黒のローファーは嫌いやねん」

「初めてのローファーは中学の頃に買った『ジーエイチバス』やったなぁ。あの頃はアメリカの革靴っていったら『ジーエイチバス』か『セバゴ』しかなかったんや。『フローシャイム』もあったけど、中学生には手が出せる値段やなかったから、実質2択やねん」。

デニムブランドのリゾルトのデザイナーである林さん。取材に持ってきていただいたローファーを見て、まず感じたことはその状態の良さだ。その秘訣を聞き、気付いたことはマメな手入れの大切さだ。

「ピカピカに光った靴は苦手やねん。あれ変やろ。せやから、毎回クリームを塗って磨くことはせえへんけど、履いたあとは欠かさずにブラシだけはかけてる。そして、手入れをしたら必ずシューキーパーは入れとるな。ローファーの形って美しいやろ。それを崩したくないねん。だから靴を買ったら、そのブランドでサイズを合わせたシューキーパーも買ってる。特別に磨いたりとかはせえへんけど、大切に扱ってる。スニーカーは壊れるけど、革靴は一生ものやから、大事に履いてれば長いこと使えるところがええよね」。

今回、用意していただいたローファーは履いているものを含め9足。その中には林さんなりのこだわりが見られた。

「黒のローファーは嫌いやねん。なんでかも自分でわからへんけど、学生のローファーが黒やったからやろな。あと、黒はモードファッションのイメージがあるから、自分のスタイルには合わへんねん。だから黒は冠婚葬祭用に数足持ってるけど、普段はなかなか履かへんねぇ」。

並んでいる中で、最も古いのは『ジョンストン&マーフィー』のローファーだ。

「20代の頃、新婚旅行で行ったハワイで買ったから、もう40年以上前やな。いまでも時々履いてる。でも、いま一番履いているのは『ジェイエムウエストン』のローファーやね。

30歳ころにパリに行って買ったのが初めてやったね。『QUALITES OBJETS D’EN FRANCE』というフランスの名品が紹介されている本があって、そこにウエストンのローファーが載ってたんや。ちょうどその頃、仕事でヨーロッパへ行く機会が増えてたから、パリの店に行ったんやったな。格式高いお店で、ボロボロの『ジーエイチバス』のローファーを磨いて、それを履いて行ったんや。そうしたら店の2階から『上に上がってこい』って声をかけられて、[180]を買ったのが最初やね。

まだ、その時はユーロじゃなくてフランやったんや。クレジットカードもなかったから、銀行へ行って、円をフランに変えてから買ったのが思い出やね。当時お店ではタバコが吸えて、接客もゆっくり、お客様に一足を選ぶのに長い時間をかけて選んでもらう。そんな接客があったんやなと、衝撃を受けた。それからやね『ジェイエムウエストン』を買うようになったのは。」

林さんにとってローファーは、ただの靴ではなく、手入れと共に育てていく一生もの。買った時から大切に扱い、履き心地や形を崩さないように工夫を凝らすその姿勢が、靴への深い愛情を物語っている。

履いているものを含め、全9足のローファーを見せていただいた。下列1番左にあるマスタードカラーのローファーは数年前「ジェイエムウエストン」にオーダーをしたもの。内側に「YOSHIYUKI HAYASHI」と記載がある
フランスの名品が掲載された『QUALITES OBJETS D’EN FRANCE』の中で、ジェイエムウエストンが紹介されたページ
日々のお手入れで、昔から変わらず、クリームではなく、つばをかけて着古した綿のTシャツで拭いている。林さんの靴の状態の良さの秘訣は、これなのかも
初めて購入した「ジェイエムウエストン」はいまも現役。取材当日にも履いてきた思い出の1足だ
すべてのローファーにはぴったりのシューキーパーを付け、履きジワをできる限り伸ばして保存。それにより、状態をキープしている
40年以上前に購入したという「ジョンストン&マーフィー」のローファー。内側の文字までくっきりと残るほどに状態が良い。「アリストクラフトライン」という高級モデル

(出典/「2nd 2025年6月号 Vol.212」)

この記事を書いた人
なまため
この記事を書いた人

なまため

I LOVE クラシックアウトドア

1996年生まれ、編集部に入る前は植木屋という異色の経歴を持ち、小さめの重機なら運転可。植物を学ぶために上京したはずが、田舎には無かった古着にハマる。アメカジ、トラッド様々なスタイルを経てアウトドア古着に落ち着いた。腰痛持ちということもあり革靴は苦手、持っている靴の9割がスニーカーという断然スニーカー派。
SHARE:

Pick Up おすすめ記事

シルバーをアートに変える、現代の錬金術師。

  • 2025.09.24

ネイティブアメリカンの伝統技法をベースに現代的なエッセンス、そして日本独自の繊細な美意識を加えることで唯一無二の世界観を紡ぎ出すFIRST ARROW’s。一片のシルバーの塊に命を吹き込むその様は まさに現代のアルケミスト(錬金術師)という表現が相応しい。これらの作品は貴方が身に付けることで完成する...

デニムにする? コーデュロイにする? エドウインのトラウザーズを軸に作る「シン・トラッドスタイル」

  • 2025.09.19

ジャパニーズアイビーのボトムスは、太ももから裾まで太さが一定のパイプドステムが主流であった。対してタック入りのトラウザーズは、1920年代に登場したといわれる、よりクラシックなボトムス。そんな旧きよきトラウザーズを軸に、いつものトラッドスタイルを刷新してみてはいかがだろうか。 【右】トラウザーズ2万...

東洋エンタープライズがこれまでに培ったノウハウや知見の集大成「モダクト」と「タフナッツ」

  • 2025.09.19

「シュガーケーン」や「バズリクソンズ」など、ヴィンテージをベースとした生地やディテールの圧倒的な作り込みで知られる東洋エンタープライズ。そんな同社が手がけるブランド、「モダクト」と「タフナッツ」は、これまでに培ったノウハウや知見の集大成でありながらどんな日常のシーンでも使いやすい実用性を備える。映画...

レザーラバー必見! 革ジャン用に作られた薄手のスウェットをゲットせよ!

  • 2025.09.30

革ジャン専用のTシャツをリリースし、レザーラバーから絶大な支持を受けるブランド「ハイウェイナイン」。ライトニング別注の「Lightning Leather Lover Tシャツ」のボディにも使われているので、愛用している方も多いのでは? そんなハイウェイナインが、レザーラバーのために新たなアイテムを...

Wranglerの走破性は本物か? オフロード体験会で徹底検証

  • 2025.10.03

筑波山の麓で開催されたジープのオフロード体験イベントは、ジープオーナーはもちろん、新規顧客にとってもジープの魅力を存分に感じられる特別な一日となった。専用のオフロードでラングラーならではの走破性を体感でき、オーナー同士の交流も見られた。今回は現地取材を通して、その模様と参加者のリアルな声をお届け。 ...

Pick Up おすすめ記事

レザーラバー必見! 革ジャン用に作られた薄手のスウェットをゲットせよ!

  • 2025.09.30

革ジャン専用のTシャツをリリースし、レザーラバーから絶大な支持を受けるブランド「ハイウェイナイン」。ライトニング別注の「Lightning Leather Lover Tシャツ」のボディにも使われているので、愛用している方も多いのでは? そんなハイウェイナインが、レザーラバーのために新たなアイテムを...

デニムにする? コーデュロイにする? エドウインのトラウザーズを軸に作る「シン・トラッドスタイル」

  • 2025.09.19

ジャパニーズアイビーのボトムスは、太ももから裾まで太さが一定のパイプドステムが主流であった。対してタック入りのトラウザーズは、1920年代に登場したといわれる、よりクラシックなボトムス。そんな旧きよきトラウザーズを軸に、いつものトラッドスタイルを刷新してみてはいかがだろうか。 【右】トラウザーズ2万...

シルバーをアートに変える、現代の錬金術師。

  • 2025.09.24

ネイティブアメリカンの伝統技法をベースに現代的なエッセンス、そして日本独自の繊細な美意識を加えることで唯一無二の世界観を紡ぎ出すFIRST ARROW’s。一片のシルバーの塊に命を吹き込むその様は まさに現代のアルケミスト(錬金術師)という表現が相応しい。これらの作品は貴方が身に付けることで完成する...

東洋エンタープライズがこれまでに培ったノウハウや知見の集大成「モダクト」と「タフナッツ」

  • 2025.09.19

「シュガーケーン」や「バズリクソンズ」など、ヴィンテージをベースとした生地やディテールの圧倒的な作り込みで知られる東洋エンタープライズ。そんな同社が手がけるブランド、「モダクト」と「タフナッツ」は、これまでに培ったノウハウや知見の集大成でありながらどんな日常のシーンでも使いやすい実用性を備える。映画...

Wranglerの走破性は本物か? オフロード体験会で徹底検証

  • 2025.10.03

筑波山の麓で開催されたジープのオフロード体験イベントは、ジープオーナーはもちろん、新規顧客にとってもジープの魅力を存分に感じられる特別な一日となった。専用のオフロードでラングラーならではの走破性を体感でき、オーナー同士の交流も見られた。今回は現地取材を通して、その模様と参加者のリアルな声をお届け。 ...