松浦祐也の埋蔵金への道。第4回「アタシの知的好奇心をお満足させるだよ!」

俳優業以外での収入を得るために『浪子回頭日記』という兼業俳優の赤裸々な日記を連載しているが、まったくゼニにならず、どうしたものかと焦っているマツーラこと松浦祐也が、本気で(?)お宝探しに挑戦中! 第4回は、1978年「日本トレジャーハンティング・クラブ」を結成し、代表世話人を務める作家・八重野充弘氏にお話を伺った。

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松浦祐也の埋蔵金への道。第1回「やっぱり、 あるとしか言えねぇ」

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松浦祐也の埋蔵金への道。第2回「何を言おうとこっちにゃ証拠があるんだわ!」

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松浦祐也の埋蔵金への道。第3回「ヤられる前にヤルしかねえ」

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2024年02月17日

アタシの知的好奇心をお満足させるだよ!

文・松浦祐也|建築現場でも撮影現場でもカントクに呆れられているおじさん。来世は石川佳純さんの飼い猫か、寺崎舞織さん(競輪選手)の飼い猫か、古川奈穂さん(騎手)の飼い猫になるため、現世で頑張る

玄関のドアを開けてくれたのは、八重野充弘氏ご本人だった。想像よりタッパがあり、長年トレジャーハンティング界を引っ張ってきた威厳を感じさせる。切れ者特有の眼つきをしていて元刑事みたいだ。アタシはムムムっと身構えてしまう。やはり只者じゃねえ。八重野氏の足元には小型犬が張り付いていて、訪問者である我々に鋭い牙を剥き吠え続ける。

この犬の眼に宿る殺意は問答無用でヒトを喰い殺す『銀牙 流れ星・銀』の赤カブトのようだ。巨星・八重野氏を守る番犬だといち早く察したアタシは、人身御供でウエダくんを先に上がらせて身の安全を図る。赤カブトは我々が席に着くまでキャンキャン吠え続けた。巨星が言葉を発する。

「この子はねえ、座ってもらうと吠えやむんですよ」

そうか、埋蔵金の謎を知る主人への刺客に対応するよう訓練されてるな。犬まで油断ならねえ。ウエダくんが我々の来意を告げると「拝見しましたよ。リズム感があってなかなか面白い文章を書かれますね」と、巨星は真っ直ぐアタシを見ながら予想外な事を仰る。あらら、あんな不埒な連載をもうすでに読まれちゃったんですか! アタシは慌てて言い訳する。

「文章はフマジメですが、マジメに埋蔵金を探したいんです! 何も知らないので色々教えてください!」

巨星は「何も知らないと素直に言えるのは気持ちイイですね」とソクラテス的優しいお言葉をかけてくれた。ん? 何だろう? 不埒なアタシに対する不信感や敵意が感じられないゾ。

まず巨星が現在調査中である「天草四郎の隠し財宝」や「福井県に隠された日中戦争時の戦利財宝」の話を具体的かつ詳細に話してくれる。発掘場所の地名まで言われたので、そういう事って絶対に隠すと思っていたアタシは正直、ショックを受けた。

秘密を知ってしまったアタシを帰す気は最初っから無くて、このまま赤カブトに喰い殺されて埋められてしまうのだろうか。アタシは震えながら「今のお話は絶対に書きませんので」と、命乞いをすると「発掘に関してボクは全てオープンにしているんです。多くの人と情報を共有して色々な意見を聞いて探した方がいいじゃないですか。これまでのトレジャーハンターとボクはそこが大きく違うんです」

よかった、巨星はニュータイプってわけか。さらに某所の探索を企画している我々に対して、八重野氏は「ボクもあそこは2回行ってまして」と、自らの経験を惜しむ事なく話してくれる。実際に探索方法を具体的に検討までしてくれたのだ。

そして「マツーラさんは『福田村事件』に出られてますよね? 監督の森達也さんは、僕の立教大学のサークルの後輩で、まあ森さんとは直接交流はなかったのですが、黒沢清くんとは彼が学生時代に交流があって」

ちょっと突然の展開すぎて理解が追いつかない。整理すると、八重野さんは学生時代に立教大学の映画制作サークル「セント・ポール・プロダクション(S・P・P)」の第3期で映画制作をされていたのであった! S・P・Pからはその後、「パロディアス・ユニディ」が派生し、黒沢清さんをはじめ、塩田明彦さん、万田邦敏さん、森達也さん、篠崎誠さんら錚々たる映画人が所属していた伝説的映画制作サークルなのだ!

映画界の大先輩じゃないですか! 塩田さんも森さんもアタシが敬愛する大好きな監督。ちなみに八重野さんは高校時代から演劇をやられていて、大学を卒業し就活時にも映画界を志望したが、結局出版業界に就職したそうだ。コッチ側の人間じゃないですか! そうと知ったら警戒心メーターがゼロになり、ざっくばらんにお話しできるようになった。

「アタシたちはお金がないので大規模な発掘調査はできないのですが、それでも埋蔵金発掘はできるのでしょうか?」という根本的疑問に、八重野先輩は「そもそも埋蔵金というのは再び活用する目的で一時的に隠したものがほとんどです。再び掘り出すのにそこまで深い穴を掘る必要はないでしょう? それに、当時の土木技術や極秘に埋蔵する性質上、重機を使用するような発掘は必要ないと思います」「個人的には自然にできた穴や洞窟、鉱山跡に隠す方が自然だと思いますね」とご教示いただく。

「多くの埋蔵金は地中0.5メートルから1.5メートル以内の深さから発見されているんです」。埋蔵金の発掘って、地中深く掘り進んだその先に千両箱が鎮座しているイメージだった。確かに一時的に隠しているって性質を考えたら、そこまで深く埋めたりしないわな。八重野先輩の話は科学的だし合理性があるので信頼できる。

アタシが「埋蔵金に興味を持つようになって歴史を学び直している」という話をしたら、八重野先輩はヒザを打って「埋蔵金探しは歴史や考古学、土木技術や地質学・動植物学や古人の思想、総合的な知識が必要になってくる。結果、プロセスで色々なことを勉強するんですよ」と目をキラキラさせながら仰るのだ。

「埋蔵金を見つけたいのですが、その準備のために思考したり勉強をすることが楽しいんです」「本気で調べ始めると自分の無知を感じる。宝探しは古人との知恵比べなんで、過程で色々なことを学べる。つまり埋蔵金探しは知的好奇心を満足させるんですよ。結果より過程を楽しめたら、素晴らしいことじゃないですか!」素晴らしいお言葉だ! アタシは天啓を受けた信徒の如く、喜びに打ち震えた。アタシが人生で求めていたモノってまさにソレだったのだ!

アタシも目をキラキラさせて「なんだか映画作りと似てますね!」と言ったら、八重野先輩は急に立ち上がり部屋を出た。なんか地雷をふんだかしら? と激しく不安になったが、戻った先輩は「これが学生時代に作った映画です」とDVDを渡してくれた。磯田秀人監督『いつか見た宇宙人』。1968年にS・P・Pで製作された16ミリフィルムのモノクロ映画。主人公を八重野さんが演じている。

オープニングカットが剣スコップの寄りで、次のカットで若き八重野さんがスコップで大穴を掘っている。これは将来を暗示しているようだ。アタシに天啓を与えた八重野さんだが、映画を続けていたら埋蔵金を探してはいなかっただろうな。そう考えるとつくづく縁ってあるんだと確信したのであります。次回はいよいよ実地調査だ。激った探究心を満足させるべく、お宝探しの旅に出る。皆を失禁させちゃうぜ!

(出典/「2nd 2024年4月号 Vol.203」)

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