2ページ目 - 自らが考案・設計したオリジナルゲームを軸に展示空間を完成させるアーティスト・BIENのアートの可能性

「自分でもすべてはわからない。それって普通のこと」

—— 偶然性とともに、作品には現実とフィクションの混在もテーマにあるように思います。

そうですね。昔はSFやファンタジーと現実の世界は別ものだと思っていたけど、最近、実は密接で両方とも変わりないものなんだなと思っています。だから作品にもそういった要素が入っていますね。

今回の作品も、1830年代にアメリカの新聞で「月にコウモリ人間がいて生態系をつくっているのを天文学者が発見した」というフェイクニュースがあり、それをみんなが信じたということから発想しています。

突拍子もなく聞こえるけれど今も小さいレベルで同じことは起きている。世の中のブームなんかも、絶対にフィクションとは切り離せないものです。それで社会が作られていくのが面白いなと思っています。

—— 観客に作品をどのように見てほしいと思いますか?

自分が美術館やギャラリーに行って良かったなとか面白かったって思うのは、その場所を出たあとに世界の見方がちょっと更新されるような感覚なんですね。だから作品を見てもらったあと、外に出て、面白いと感じてもらえるようになればいいなと思いますね。

あと、こんなの自分にもできるぞって思ってほしいですね。グラフィティやポップアートが好きなのも、こういうのを作ってみたいなと思えるところなので。アートが遠いものじゃなく、近くにある面白いものだと思ってほしいです。

今回見に来てくれた友達が、新聞のドローイングを見て会社で暇なときにやったと言ってくれてすごく嬉しかったんですよね。そういう感じで見てほしいですね。

木食い虫の跡のように、一定の幅で描かれた線上を削ったパネルのシリーズはBIENさんの代表的な作品のひとつ。ドローイングと同様に、アニメやキャラクター、記号、文字などの輪郭をなぞり直し、記号的な意味の解体と再構築を試みる。青や橙は、夕暮れや朝焼けを撮影した写真の色面を抽象化した色を参照しているため、今回の展示空間のなかでは空の位置に見立てて壁の上部に展示された

—— 平面から立体作品、映像、インスタレーション、キュレーションと表現の幅が広がっていますが、今後の目標はありますか?

今はドローイングやペインティングの作品に立ち返ってやってみたいです。色々なメディアで制作したけど、絵は絵にしかできないことがあって、それが面白いしやっぱり好き。以前は美術館でやりたいとか評価されたいとかあったけど、最近はそんなこと気にしてもどうしようもないなと思ってきました。このまま色んなところで作品を発表していきたいですね。

PlanetesQue: The Case of B

今年7〜9月に東京・馬喰町のギャラリーPARCELで開催された個展。BIENさんが設計した、誰でも展覧会を作ることができる「PlanetesQue」(プラネテス・ク)というゲームをプレイし、その結果をひとつのインスタレーション作品として発表。新聞を使った平面作品やフィギュアを巨大化した彫刻などをルールに則って配置した。「今回これをやって、ここ2年くらいやりたかったこと、やってきたことを自分のなかでまとめられ、少しすっきりした」と話す。

コウモリ人間を象ったオブジェクトは、ゲームの装置に含まれるパーツのひとつ。1835年にアメリカで起こった捏造事件から発想された。この配置もサイコロの出目によって決められているが、2階建ての特徴的なギャラリー空間を考慮し、上階から見た際の目線にあわせて、壁の作品や立体作品の高さを設定したという。

(出典/「2nd 2023年12月号 Vol.200」)

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