寿司屋に細かいルールなし! 「吉野鮨本店」で学ぶ、粋な寿司の楽しみ方

トラッドを志向する者ならば、装いだけでなく普段の生活からトラッドにいきたいもの。そのためにまずは、ちょっぴり背筋が伸びる「粋」を感じる場所へ。格式高い寿司店には、学校では教わらない独自のマナーがある気がして、入るのに勇気が要るもの。でも考えてみれば寿司は最もトラッドな日本食のひとつ。飾らずに自分のスタイルを貫く。ありのままの自分で日本の味を噛み締める、それこそが粋に繋がるというのは、“衣”も“食”も同じなのかも。そんな寿司屋への憧れを持ちつつも、どこか敷居の高さを感じてしまっていた俳優と映画監督の二つの顔を持つ嶺豪一さんが、江戸前寿司が堪能できる名店・吉野寿司本店へ。5代目店主・吉野さんに粋な寿司道を教わった。

嶺豪一さん|1989年熊本県生まれ。俳優としても映画監督としても活躍中。主演最新作は、四人の兄妹を四人の異なる監督が四つの物語で紡ぐ映画『almost people』。9月30日から渋谷のユーロスペースにて公開予定

自分のスタイルを持つこと

吉野 僕は5代目なんですが、実は3代目の祖父が俳優をやってたんです。戦時中は疎開先で劇団を作ったり、戦後もドラマや映画なんかに出たりして。だから今日嶺さんとお話しできることに、不思議な縁を感じているんですよね。

 お祖父さまは寿司屋と俳優の二刀流だったってことですか!? 凄いですね。

吉野 それと実は僕も演技の道を志して、大学の文学部の演劇科に入ろうって思ってた時期があったんです。でも結果行かなかった。まぁそのおかげで今があるんでしょうけど(笑)。

 そうだったんですね。これ不思議なんですけど、実は僕は吉野さんと真逆。祖母がラーメン屋をやっていたり、叔父もビストロをやっていた影響で、もともとは飲食業に憧れてたんです。でも高校の頃に北野武監督の「キッズリターン」という作品を見て、“自分も映画作りに携わりたい”って。

それから高校卒業後に熊本から上京して、美大の映像演劇学科に入って演技や映画作りについて学び、今に至る感じです。吉野さんはどういう流れで役者志望から寿司職人に? やっぱり先代から誘われたからですか?

吉野 ざっくり言うとそんなところですかね(笑)。大学卒業してすぐにここで働くことになったんですけど、それまでは寿司を握ったことなんてなかったから大変でした。当時は“目で見て盗め”って時代でしたから。初めて魚をおろしたのなんて25歳になってからですからね。

 それでもこんなに極められるなんて凄い。当たり前ですが、自分がいつも食べている回転寿司とは全然違う! 漬けもコハダも穴子も、こんなに美味しいの食べたことない! 本格的なお寿司屋さんにはずっと憧れてたんですけど、僕の知らない暗黙のルールがある気がしてなかなか飛び込めなくて。

勝手にハードルの高さを感じていたというか、それこそ自分にとっては身近に存在してる異世界のように感じてた気がします。でもこんなお店で気張らずに食事を楽しめるようになったら粋だなぁ。

吉野 寿司なんて好きなネタを好きな順番で好きなように食べればいいんですよ。よくこうしろああしろって雑誌なんかに書いてあったりするけど、個人的にはそんなちまちましたことなんて気にしなくていいと思ってます。

 伝統あるお店のご主人からそう聞くと安心できますね。

吉野 むしろどこかで見聞きした知識をこれみよがしに披露する感じで、変に通ぶってるほうがかっこ悪く見えちゃう。できれば何度か通ってみて、自分の好みのネタだったり、好みの食べ方を発見するのがオススメです。そうすればいつか自分のスタイルができてくる。変に肩に力が入っていなくて、 ごく自然に、自分の好きなように食事を楽しんでいらっしゃるお客様を見ると、粋だなって感じます。

 自然体に振る舞えることが粋に繋がると。自分のスタイルを確立するまでには時間が必要なんですね。

吉野 その過程で職人と絆が深まっていけば、自分の好みも覚えてもらえるはず。そうすると店主導のタネを出す“おまかせ”ではなく、自分の好みを把握した職人に、本当の意味での“おまかせ”を頼めると思います。

 いつか“おまかせで”っ て頼めるように精進します。

寿司屋に細かいルールなし。

知られざるルールが潜んでいそうな、本格江戸前寿司の世界。でも実は細かいしきたりなんて一切なし。自分の本当の“好き”を発見するのが粋への近道。

手 or 箸?

正解は、どちらでもOK。吉野さんいわく、「持ち方なんか一切気にしなくいい。ただウチもそうなんですが、あらかじめ醤油やタレなどを塗っている店の場合は、どう持ってもいいからとりあえず最初は何も漬けずに食べてみるのがオススメ」

注文の順番は?

これもまた順番はなんでもOK。「他人の目なんか気にせず、自分の好きなように食べていい。トロが好きならトロだけず〜っと食べててもいいですし。わからないことは職人にガンガン質問して、好みのタネを見つけてみてください」

これだけはやっちゃダメ! ネタを剥がして醤油をつける

「絶対NGってわけではないんですが、せっかく工夫して握っているので、わざわざそれをバラしてしまうのはもったいないかなと」。お店によって握り方にも異なる創意工夫が凝らされているので、これだけは避けよう。

いい寿司店ではコレを食べるべし!明治12年創業 トロ握り発祥の老舗「吉野鮨本店

かつて河岸として繁栄した東京・日本橋で明治12年(1879年)に創業。トロを最初に握った店としても著名だ。毎朝河岸で新鮮な食材を厳選しているほか、甘味を加えず粕酢と塩のみで作ったシャリを継承し続けるなど、良質な江戸前寿司が堪能できる名店として、食通からも評価が高い。


左上から時計回りに/煮ハマグリ(770円~)、穴子(440円~)、卵焼き(330円~)、トロ(1320円~)、赤身の漬け(550円~)、コハダ(440円~)同じタネでも店によってまったく味が異なるのも、寿司の面白いところ。吉野さんにオススメしていただいたのは、上の6つ。「どれも江戸前寿司の定番。お店の味が反映されやすいので、迷ったらぜひお試しを」

【DATA】
吉野鮨本店
東京都中央区日本橋3-8-11
TEL03-3274-3001
営業/11:00~14:00、16:30~21:30(土曜11:00~14:00)
休み/日曜祝、金曜祝日の場合の土曜

※情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。

(出典/「2nd 2023年11月号 Vol.199」

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2nd 編集部
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