徹底解剖により生まれた幻のコロンビア製スニーカー、完全復刻。

’90年代、当時の生産拠点でもあったコロンビア工場の閉鎖とともに長らく市場から姿を消し、いわゆる裏原の文脈でも珍重された名モデルが、偏狂的なディテールワークと気の利いたアップデートのもと、ジャパンメイドで蘇った。

“細かいことは気にしない”を細かく気にした名復刻。

名門ケッズのプロフェッショナルラインとして1958年にスタートしたプロケッズ。ヴィンテージ市場においては今なお熱狂的なファンを有する中堅ブランドながら、近年はあまり注目していなかった読者も実は少なくないはず。

1995年、当時の生産拠点だったコロンビア工場が閉鎖されるという一報が届くと、わずかに残った国内在庫は瞬時に完売。特にHFこと藤原ヒロシ氏が最後のコロンビア製造を意味する「ラストコロンビア」と銘打って雑誌の連載企画へピックした[ロイヤルプラス]は一躍プレミアモデルへと上り詰めた。

あれからおよそ30年、その間もブランド自体は存続していたが、中国へと生産拠点が移されて以降、次第に大手量販店を中心に安価で展開される廉価ブランドへと成り下がっていった。そんな状況を憂いた数名の偏狂スニーカーマニアが手掛けた、世界初の“完全”復刻版が昨年静かにリリースされたのをご存知だろうか。

とはいえ、もちろん単にマニアなだけでなく、じつは長年にわたり靴業界に身を置き、デザイン、テクノロジー、製造、流通と、あらゆる分野を知り尽くした彼らが目指すのは、“バルカナイズスニーカーにおける第三極”。

つまりコンバースやヴァンズに続くバルカナイズ第3の選択肢として、その地位をゼロから復興させるべく、採算度外視で今回のプロジェクトを立ち上げたという。まさにヴィンテージと見紛うほどの高い完成度は一旦さておき、ファストファッション全盛のご時世に3万円を超える異例の販売価格が何よりひと際目を引く。そうした意図は、そもそも大量に売ることが目的ではなく、まずはこの完全復刻を長い間待ち望んでいたファンの手に渡らせることに重きを置いているため。そして、それからゆっくりと裾野が拡がっていく過程で、自然とプロケッズが第三極になっていくことが彼らの理想だ。

世にいう完全復刻とは、なるべく当時の意匠や仕様を活かしつつも、オリジナルの中でも特に完成度の高い個体、すなわち出来の良い個体を丁寧になぞる傾向にあるが、彼らは当時のインポートに見られたライン製造ならではの個体差までをも忠実に再現している。使用ラストから各部材に至るまですべて精巧なジャパンメイドを取り入れながらも、製造過程で発生するわずかな個体差を概ね許容することで、よりリアルな完全復刻を目指したという発想が、もう普通じゃない。“細かいことは気にしない”ことまでをも細かく再現しているワケだ。

ただ、オリジナルは製造から少なくとも20年以上の時を重ねているため、たとえデッドストックを見つけることができたとしても、その快適性やパフォーマンスは明らかに衰えている。そう考えれば、確かにこの復刻はひとつの最適解。そして、さらに気の利いたアップデートが各所に散りばめられているとしたら……、オリジナルを愛してやまない偏狂家たちが具現化したプレミアムなディテールワーク、その詳細を深掘りする。これが、完全復刻の全貌だ!

完全復刻のひな型となったコロンビア製前期モデルとは?

ラストコロンビアとして’90年代半ばに取引されたモデルの中には、実質的な最終型だけでなく、じつはそれ以前のものが含まれていたため、コロンビア生産は全てラストコロンビアであるとの誤解が浸透している。今回の復刻版ではコロンビア生産の初期ロットに倣い、ブルーのヒールパッチにも最終型とは異なるフォントデザインを採用している。

【ポイント1】高品質の国産銀付きスウェードを一枚使い。

近年スニーカーに使われるレザーの多くは、革を薄く梳くことで加工時の負担を軽減したものが大半だが、本モデルではオリジナル同様に銀面と呼ばれる表層部分をしっかりと残した、革本来のコシとハリを感じる高品質な国産スウェードを採用している。

【ポイント2】あえて不揃いに仕上げたフォクシングテープ。

製造過程で発生するわずかな個体差が最も現れやすい部分でもあるフォクシングテープ。今日の国内市場であればB品としてハジかれかねないわずかなズレを、あえて許容することで、さらにオリジナルの風合いに近づけた。

【ポイント3】二重構造のインソールで履き心地が格段に向上。

ルックス的にはオリジナルを忠実に再現しつつもパフォーマンスまで先祖返りする必要はないと、ランニングモデルで培ったノウハウを取り入れ、低反発インソールを採用するなど、快適性はしっかりアップデート。

【ポイント4】ヨレ感が当時の風格を呼び起こす甘撚りの中太幅シューレース。

オリジナルの特徴のひとつでもある、定番の綿紐ともファットシューレースとも異なるミドル幅のシューレースも完全再現。復刻にあたり最もこだわった部分でもあり、撚り加減には何度も手直しを加えたという。

【ポイント5】オリジナルパターンをビブラム社に完全別注。

こちらはヴィンテージのアウトソール

耐摩耗性が気になるアウトソールには、オリジナルパターンを忠実に再現しつつ、さらに強度を加えた特注ゴムソールをビブラム社へスペシャルオーダー。わずかなロットでも業界に精通する彼らだからこそ実現できた偏狂ディテールのひとつ。

【ポイント6】木型から起こしたこれぞ復刻の極み。

復刻プロジェクトに参加したロイヤルプラスラヴァーズたちの私物ヴィンテージをかき集め、それらを基に木型もゼロから完全再現。日本人の足にフィットするといったアレンジは一切せず、ひたすらに当時のフォルムを追い求めた。

プロケッズの[ロイヤルプラススウェード]

90年代のストリートシーンで火がついたコロンビア製ヴィンテージを忠実に再現しながらも、UVカット機能を備えたシュータンや低反発インソールなど、機能面は現代的にアップデート。普段は見えない細部に至るまで最高品質の素材を吟味し、国内生産で仕上げた業界初の完全復刻モデル。各3万8500円(プロケッズジャパン https://prokeds.jp/

【問い合わせ】
プロケッズジャパン
https://prokeds.jp/

※情報は取材当時のものです。現在取り扱っていない場合があります。

(出典/「2nd 2023年6月号 Vol.195」)

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